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18.6.11

2) 研究発表 

2) 「理想的言語自己と心的境界の薄さ 日本人英語学習者を対象にした研究」

菅原 健太(札幌大学非常勤講師・北海道大学大学院)

 英語学習者の自律的成長を促す仕組みを理解・説明することを目的とした発表者による研究の経過について報告した。近年、英語教育学では国際化や高等教育の大衆化といった社会的背景により、学習者オートノミーの育成を目標に掲げた学習者要因研究に高い関心が寄せられている。この分野の中でも、「自己」が誘因となる動機づけ面を扱う探求型研究には、研究者と実践者の双方から注目が集まりつつある。学習者の自己推進力の維持・抑制に直結する心的機能を説明するためにDörnyei (2005)が開発した理論的枠組みが「L2動機づけ自己システム」である。発表者による研究では、L2動機づけ自己システムの構成要素と関連がある他の認知・情意面と言語行動の特徴を特定し、これらを自己システムに統合することでこの枠組みの拡大・深化を目指している。今回の発表では、(1)取扱う学習者要因とL2パフォーマンス要因の理論的考察、及び仮説モデルの構築過程、(2)認知・情意面を調査する目的で開発した質問紙の信頼性と妥当性を検証した予備調査の結果、(3)L2パフォーマンス面の測定方法、これらについて提示した。 (1)に関して、自己システムの要素「理想的L2自己」、「義務的L2自己」、「L2学習経験」との関連を予測した構成概念は、「国際的志向性(Yashima, 2002)」、「社会信念」、「境界の厚さ・薄さ(Hartmann, 1991)」である。これら全ての心的特性・機能が学習を継続する力「意図的努力」に直接的または間接的な影響を及ぼすこと、及び、この意図的努力が特定のパフォーマンス面「複雑さ」、「流暢さ」に直接の影響を与えることを発表者は考察から推測した。(2)で触れた質問紙の精度に関しては、項目間の内的一貫性を示すクロンバックのα係数が7領域全ての尺度において.70を超えており、複合尺度の一定の信頼性が確認できた。また、相関分析の結果をみたところ、各測定領域間に予測した相関関係が存在したため、尺度の妥当性に関する示唆も得られた。(3)L2パフォーマンスの測定方法については、学習者が産出した英作文を「統語的複雑さ」、「語彙的多様性」、「統語的多様性」、「分ごとの産出数」、「非流暢さ」等の指標を用いて多面的に分析する予定であることを報告した。