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18.6.11

3) シンポジウム

テーマ  「大学英語教員が行う社会貢献とその実際」

司会: 横山吉樹(北海道教育大学札幌校)   
講師: 萬谷隆一(北海道教育大学札幌校)
佐々木智之(北海道工業大学)
河合靖(北海道大学) 




大学英語教員が行う社会貢献とその実際

横山吉樹(北海道教育大学札幌校)
萬谷隆一(北海道教育大学札幌校)
佐々木智之(北海道工業大学)
河合 靖(北海道大学)
大学教員は,研究だけすればよいという時代ではなくなってきている。授業もしっかりしなければいけない。学生指導も丁寧にし,留年することなく,就職させるようにしなければいけない。さらに,公費をもらって研究している身ゆえに,それを社会に還元する責任がある。その一つとし,社会貢献をすることが義務として課せられることが多くなっている。公開講座,免許更新講習,小・中・高への出前授業,小・中・高の研究会や公開授業への(講師としての)参加,SELHighへの参加,教育員会などが行う委員会への参加(教科書選定の委員など),地域の研究会やボランティア団体への参加などが挙げられる。本シンポジウムでは,大学英語教員の社会貢献の実態を報告してもらう。そして,そこからどのようなことを学びとり,自分の本来の仕事である研究や授業に還元しているのかを考えてみたい。
(横山吉樹)

CELENETによる教員支援
CELENETは、小学校で英語を教える教師のための「情報・意見の交換の場」をインターネット上に作り、各種サポートを提供することを目的としている。インターネットにより、どのような地域からもアクセスすることができる。小学英語をどのように進めたらよいのか、多くの教師が不安をかかえているが、CELENETを通じて、最新情報・先進事例を参照し、実践に携わる教師と情報交換ができる。広域性というハンディキャップのある北海道では、教員の研修がきわめて困難であるが、本サイトの開発は、その問題をインターネット技術によって克服しようとする試みであった。登録者は非営利の学校関係者とし、北海道をはじめ全国の登録者が現在約750名おり、人的なネットワークを拡げる役割を果たしている(20107月現在)。主な機能としては、日記コーナー、質問コーナー、英語学習コーナー、教材・指導方法事例集、英語学習コーナー、ネット講座などの機能やコンテンツを用意している。教員研修は、地域の教育委員会等が進めているが、大学として貢献できる側面として、情報交換や人的ネットワーク作りの場の提供、および専門的知識の提供に焦点化し、これまで本コミュニティサイトの運営を行ってきた。発表では具体的内容について報告する。
(萬谷隆一)

出前授業
大学教員として、中学・高校での出前授業、研究会や講座の講師をさせていただく機会がある。どちらも学校や研究団体などの公的機関からの依頼によるものだが、毎回実感するのは、こちらが貢献したのではなく、むしろ貴重な自己研鑽の機会を得たということだ。
まず出前授業に関して。事前準備の打ち合わせが特に重要である。主催者が求めていること、受け手となる学校の生徒の実態、講座の参加者の多様性など、直接または間接的に情報を集め、想像力をはたらかせる。自分の大学での授業準備とは異なる点が多い。そして当日、実際に対象者を目の当たりにして、授業や講座をはじめてから、こちらの柔軟性が試される。こちらが用意した活動が想定したように進行するとは限らない。スムーズに進まないことが多いが、逆に参加者の能力が高く、課題の難易度などを調整しなくてはならない場合もある。どちらにしても、柔軟な対応ができるか否かは、事前準備がその成否を決める。普段、他者に授業を公開する機会がほとんどない大学教員にとって、授業研究の大切さを痛感する貴重な機会となるのである。
次に研究会等の講師である。こちらは、多くの場合、受け手が教員である。こちらの発表する内容や提示した活動が、何らかの形で相手の今後の実践につながるものであることが望ましい。そのために常々意識しているのが、時間と内容の構成である。いかに限られた時間の中で、こちらの提示する活動を理解してもらうか。そのために、体験的活動を取り入れる。活動のあと、参加者間で振り返る場を設ける。研究会に参加する教員であるから、当然、研修に対する意識が高い。事後アンケートのコメントも示唆に富む。これらの意欲的な活動状況によって、こちらが提示した活動に新たな価値を見出すこともある。
出前授業、研修講座のどちらも普段の授業実践とは異なる点があり、新しい学びはもちろんのこと、忘れていた基本的なことがらへと立ち返ることにもつながっている。
(佐々木 智之)

SELHiへの支援
高校の英語教員を経験し専門も英語教育であるため、中等教育の研修会講師や各種指導委員の声がよくかかる。平成14年度からと平成19年度から それぞれ3年間SELHiの運営指導委員を務め、その間、出前授業の責務も果たした。北海道・札幌市教育委員会開催の英語教員研修も5回担当している。また、免許更新講習も初年度のみであるが担当した。
 勤務校の全学教育で英語を担当し、自身の感触でも学生による授業評価でも、英語教育としての出来栄えが芳しいとは到底思えない中で、現場経験があり、専門の研究分野が近いという理由でこのような場面に呼び出されることに内心忸怩たるものがある。しかし、飛び込みで高校のクラスに入って行って英語で授業をこなしたり、中学・高校で実際に英語を教える教員を前に、中等英語教育の何たるかを英語で語る勇気のある大学教員は、そんなに数が多いわけではな い。凡百の一人として人前に姿をさらすことで、見る人に多少の勇気を与えることしかできないと知りつつ、役目を全うするために努力している。
 平成19年度から滝川西高等学校で2度目のSELHi運営指導委員を務めた。この学校がSELHiになった経緯に特色がある。通常は、教育委員 会から可能性のありそうな学校の管理職に打診があり、管理職の強い意向のもとに、英語教員(の一部)が仕方なくやるというのが実情だ。しかし、この学校の 場合、教員が自ら手をあげて、3年間SELHiの事業を全うした。普通の学校の先生が普通の学校の生徒を相手にどこまで英語で授業展開できるかを示した点に大きな意義がある。彼らを突き動かしていたのは、変わりたいという自己変革への欲求だったように思う。
 最後の運営指導委員会のあとの懇親会で、英語教員の1人が語ってくれた言葉に「SELHiを始めるまでは、英語で授業ができればそれで終わりだ と思っていた。やってみたら、英語で授業をできるようにならないとわからない次の問題が出てきた。問題を解決できたわけではないけれど、そういう問題があ ということを知ることができたのが、SELHiをやった一番の収穫だ」というのがある。できそうにないからとあきらめていたら、次のレベルの問題は一生 わからない。できもしないことをできると言われて持ちあげられるのはご免こうむるが、そういう人たちもいますということを伝える人間としてなら、大学教員 の自分が現場に出かけていくことも悪くはないと思うようになった。
(河合靖)